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大阪高等裁判所 平成6年(ネ)2431号 判決

大阪府池田市畑四丁目二-五 レスポアール一〇六号

控訴人

寺田茂

右訴訟代理人弁護士

菊池逸雄

奈良県生駒市壱分町一〇九八番地三

被控訴人

株式会社日本ホーミング

右代表者代表取締役

加藤修身

右訴訟代理人弁護士

朝沼晃

安野一孝

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  申立

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、金一七七二万九一六〇円及び内金一一二二万二七四〇円に対する平成四年六月一日から支払い済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二  事案の概要

本件事案の概要は、原判決の事実及び理由「第二 事案の概要」欄に記載のとおりであって(但し、別紙原判決訂正等一覧表(1)のとおり訂正)、控訴人は、被控訴人との間で締結した特許使用許諾契約に基づく平成元年一月分以降平成五年一二月末日までの実施料合計一七七二万九一六〇円と内金一一二二万二七四〇円(平成四年五月分までのもの)に対する支払期日以降の日である平成四年六月一日からの商事法定利率による遅延損害金の支払を請求するところ、被控訴人は、右契約(本件契約)は既に合意解除されているとして、これを争っている。

第三  争点に関する当事者の主張

一  本件の争点は、本件契約が合意解除されたか否かであり、これに関する双方の主張は、次に控訴人の当審における補充主張を追加するほかは、原判決の事実及び理由「第三 争点に関する当事者の主張」欄に記載のとおりである。

二  控訴人の当審における補充主張

1(被控訴人会社と近畿ホームビルダーとの関係についての認定の誤りと、それを前提とした判断の誤り)

(一)  原判決は、被控訴人会社と中井及び齋藤が被控訴人会社から独立して設立を予定していた近畿ホームビルダーとの関係について、「被控訴人会社と近畿ホームビルダーは業務提携して、被控訴人会社が営業活動を中心に行い、近畿ホームビルダーに下請工事を行わせる予定であった」(原判決四六頁)と認定し、これを前提として、「被控訴人会社が本件発明を利用した工法で家屋の建築をする場合には、近畿ホームビルダーに下請けに出せば済むことであり、被控訴人会社が実施料を支払って本件発明の実施権を保有し続ける利益はないから、控訴人と近畿ホームビルダー名義の専用実施権設定契約が締結される見込みが判明した時点で本件契約を合意解除するに至ったことも不自然ではない。」(原判決四五頁)と判断した。

(二)  しかし、真実は、近畿ホームビルダーは、被控訴人会社から、その事業範囲が競合しないように名張市を商圏として分け与えられ、名張市を本拠として活動することが当初から予定されていたのであって、商圏を別にする会社として設立される近畿ホームビルダーを被控訴人会社の下請として、被控訴人会社が営業を担当し、近畿ホームビルダーが工事を担当するというようなことはまったく予定されていなかった(但し、柏本邸、田中邸の二件の工事だけは、中井が責任をもって建てるとのことであったため、近畿ホームビルダーが、被控訴人会社の下請けという形で工事を行った)。被控訴人会社代表者加藤は、この点の関係を、「名張市で竹中都市開発が百合が丘の開発をしていたので、それと被控訴人会社が提携することになっていたのですが、この商圏を中井に渡すことで会社が成り立つよう配慮しました。」(平成四年一二月一五日の原審第六回口頭弁論期日における供述)として、明確に供述している。右のとおり、被控訴人会社は、中井及び齋藤が被控訴人会社から独立して近畿ホームビルダーを設立した後も本件発明を実施することを予定していたのであり、本件発明の実施権を保有し続ける利益を有していた。そうであったからこそ、被控訴人会社の代表者となった加藤は、昭和六二年四月までに、控訴人との間で、わざわざ文書を交わして第一契約を改め、実施料を定額とする本件契約を締結したのである。その本件契約を同月末に合意解除するなどあり得ない。

(三)  原判決は、被控訴人会社と近畿ホームビルダーとの関係についての事実認定を誤ったうえ、その誤った前提のもとに被控訴人会社の合意解除の主張を不自然なものではないとの誤った判断をしたものにほかならない。

2(被控訴人会社の本件発明実施を推認させる事実の存在)

被控訴人会社は、近畿ホームビルダー設立後も本件発明を実施している。これを推認させる甲一三号証のパンフレットを作成しての広告宣伝、本件発明の工法により建築したモデルハウスについて、その建築途中のビデオ撮影及びそのビデオの下請業者に対する研修目的での放映、ないし少なくとも、これに代わる写真の撮影とその下請業者に対する研修目的での使用、本件発明を実施した建築工法の模型のモデルハウスにおける展示等の事実が軽視されてはならない。

近畿ホームビルダーが被控訴人会社の工事を下請けする予定がなかったことは前記のとおりであり、昭和六二年一〇月に作成され、被控訴人会社の橿原展示場がオープンした平成二年九月以降同展示場でも頒布されていた右甲一三号証のパンフレットによる広告宣伝は、被控訴人会社が近畿ホームビルダーの設立後も本件発明を実施していたことを示すものにほかならない。

ビデオ撮影及びその工事業者に対する研修目的での放映の点については証拠不十分としても、少なくとも、工事業者に対する研修目的で被控訴人会社が写真をとっていたことは明らかである。また、モデルハウスにおける模型の展示も、工事業者に対する工法の研修としては十分であり、顧客に対しては宣伝となることも明らかである。これらの事実も、被控訴人会社の本件発明の実施を推認させるものである。

3(本件給付の趣旨)

被控訴人会社が控訴人に支払った金員(本件給付・原判決の「第二 事案の概要」の三項)を、本件実施料とは別の、新工法の開発、技術協力に対する顧問料であるとするのは、社会常識に反する。

控訴人はいわゆる町の発明家である。そのような者に対し、特許申請もしていない段階で、技術開発名目で月額二〇万円もの顧問料を支払うことはおよそ考えられない。それも、控訴人が、被控訴人会社に毎日出社して開発に従事していたというならば格別、控訴人は、当時ロコシステムに在籍して同社の業務に従事しており、被控訴人会社からは、何の拘束も受けていなかったのである。しかも、被控訴人会社からは新特許について何の権利主張もない。これら事実に照らせば、本件給付が技術開発の顧問料でないことは明らかである。

第四  争点に対する判断

一  被控訴人会社主張の合意解除について判断するにあたり、前提となる事実経過は、原審の被控訴人会社代表者の供述により成立が認められる乙九号証、同一三号証、右代表者の供述と原審における控訴人本人の供述並びに弁論の全趣旨によって認められる当審認定のいくつかの事実を付加するほかは、前記原判決の「第二 事案の概要」欄一ないし三及び原判決の「第四 争点に関する判断」欄一ないし四に各摘示のとおりである(但し、別紙原判決訂正等一覧表(1)ないし(4)のとおり訂正。なお、原判決の右各項に掲記の証拠のうち、成立について争いのある甲一〇号証、同一四号証の1ないし5、同一五号証については、原審における控訴人本人の供述により成立を認める)。右事実経過の趣旨、概要を摘記すると次のとおりである。

1  控訴人は、かつて高知県で材木業を営んでおり、昭和五〇年代前半には、出願中の本件発明の実施に必要なプレカット材木を販売していた。

2  被控訴人会社の前代表者中井は、そのころ、丸栄産業という訴外会社に勤務していたが、NHKのテレビ番組をみて本件発明のことを知り、これに興味をもって控訴人と連絡をとり、右訴外会社において、右プレカット材木を購入したりしていた。

3  その後、控訴人の前記事業が失敗し、控訴人は、本件発明に関し右のような興味を示していた中井がまだ右訴外会社にいるものと思い連絡したところ、同人は既に同社を辞めていたが、同人の自宅へ連絡して再会を果たした。

4  右再会の際、中井は、控訴人に対し、同人としても控訴人を探していた、いずれ会社を設立して控訴人の本件発明を利用した住宅建築の事業をしたいと考えていた旨の話をした。

5  そして、昭和六一年一一月六日、被控訴人会社が設立され、右中井がその代表取締役に就任し、同六二年一月五日には、右中井を代表取締役とする当時の被控訴人会社と控訴人の間で、被控訴人会社が本件発明を実施することを許諾する旨の第一契約が締結され、実施料は、土地及び外構工事を除く住宅契約金の二パーセントと定められた。

6  中井とその当時被控訴人会社の取締役を務めていた齋藤は、控訴人から本件発明を実施するうえでの工事技術について指導を受け、本件発明を基本にした工事法(TM構法)を一応完成し、この工法によったモデルハウスを開設して本格的な営業活動を開始すべく準備を進めていた。

7  ところが、昭和六二年一月ころになると、かねて被控訴人会社のオーナーないし親会社とでもいうべき会社から中井に替わって被控訴人会社の代表者になるよう要請を受けていた現代表者加藤から、中井に対し、その旨の話が持ち出され、両者の間で交渉の結果、昭和六二年三月三〇日、中井は被控訴人会社の代表取締役を辞任し(但し、取締役としては留任)、加藤が替わって代表取締役に就任した。

8  もっとも、中井が取締役として留任したといっても、右交渉の過程で、中井は、近いうちに被控訴人会社を辞めて独立して営業をしたい旨の意向を示し、そのころから、新会社(後の近畿ホームビルダー)の設立、独立営業に向けた準備活動を開始していた。

9  一方、被控訴人会社の現代表者加藤もこれを承諾しており、むしろ、被控訴人会社も設立されて間もない会社で、実際に活動するスタッフは現代表者加藤や中井、前記齋藤を含めても五、六名という程度の会社であり、中井や建築士として登録されている齋藤を除けば技術スタッフはおらず、新たに技術スタッフを迎え入れるのも困難な状況であったことから、現代表者加藤は、中井が新会社を設立して独立すれば、そこに被控訴人会社が受注した工事の施工を依頼して行って貰うことを考えていた。

10  そして、加藤は、昭和六二年四月一一日、当時控訴人が勤務していた株式会社ロコシステムから、控訴人が関与して作成されたキャドシステム(CAD)「技」(建築工事、木造住宅の軸組等の各種工事内容をソフト化したもの)を購入して、控訴人からそれに関する技術指導を受けたり、同月一二日には、近鉄奈良線学園前駅近くに本件発明やTM構法を使用して造られたモデルハウスを開設したりした。

11  しかし、加藤は、前記第一契約で定められた本件発明の実施料二パーセントというのは、被控訴人会社の得る利益の一割にも相当し高過ぎるので定額制に変更して貰いたいと考えていたので、その旨、控訴人に申し入れたところ、控訴人としても、右二パーセントというのは、もともと中井の方で言い出したもので、まだ営業が始まっていない右第一契約締結の段階ではともかく、実際に営業が開始されれば、中井の方でも非常に高いと言ってくるだろうと感じていたこともあって、右加藤の申入れに応じ、昭和六二年四月一四日ころ、控訴人と被控訴人会社間で、右第一契約を変更し、本件発明の実施料を昭和六二年中は月額二〇万円、同六三年中は月額二二万円、同六四年中は月額二四万二〇〇〇円とすること等を定めた本件契約を締結した。

12  ところが、加藤が中井に対し右実施料変更の話をしたところ、中井から同人が新設する会社(近畿ホームビルダー)で被控訴人会社の右本件発明の実施権を承継して使いたい旨の申入れがあり、加藤としては、あえて本件発明の方法を使用しなければとは考えておらず、建物は在来工法でも十分建てられると判断していたことから、右中井の申入れを承諾することとした。

13  そして、加藤が、昭和六二年四月末ころ、ロコシステムにいた控訴人に電話をして、右中井の申入れとこれを容れて同人に右実施権を承継させたい旨話したところ、控訴人は、これを承諾した。

14  その後、控訴人と近畿ホームビルダー(代表者中井、設立登記は昭和六二年九月二五日)との間で、昭和六二年五月五日付の本件発明に関する専用実施権設定契約が締結された。

15  そして、被控訴人会社は、昭和六二年五月二八日に柏本由太郎邸、同月三〇日に田中正雄邸の建築を受注したのを始め、昭和六二年七月以降平成三年一二月末ころまでの間におよそ一六〇軒前後の建物の建築を受注したが、そのうち本件発明の方法を実施して建築されたのは、工事の施行を近畿ホームビルダーに請け負わせた右柏本、田中の両邸分だけであり、その他のものはすべて他の工務店等の手によって在来工法で建てられた。

16  ただ、被控訴人会社代表者加藤としては、在来工法による木造住宅においても鉄骨造の場合と同様単純な方法で軸組ができないものかと考えていたこともあって、昭和六二年八月三日、控訴人に会い、同人に対し、その旨を告げて、その工法の開発への協力と指導を依頼し、控訴人はこれを承諾した。そこで、被控訴人会社は、控訴人の右開発への協力、指導に対し、月額二〇万円の報酬を支払うことを約し、同月からその支払を開始した。

17  右依頼を受けた控訴人は、もともと軸組構造を研究していたので、その後、柱と梁の接合方法を単純化する等の工夫を加えた新工法を考え出し、昭和六三年一月には被控訴人会社の依頼で新工法の柱と梁の接合部の基本モデルを製作したり、同年六月に、被控訴人会社が京都大学の木質科学研究所に依頼して行った新工法の強度実験に立ち会ったりする一方、新工法について自己の名で特許出願をしたほか、同年九月、被控訴人会社が大阪見本市会場に新工法のモデルを展示した際には、その製作、展示についての指導を行った。

18  一方、被控訴人会社は、控訴人の右のような働きに対し、昭和六二年八月から同六三年三月までは月額二〇万円、同六三年四月から同年一二月までは控訴人の要求を容れて月額二四万円の割合による報酬を支払った(但し、昭和六三年二月と三月には前記基本モデルの製作費等三〇万円を一五万円宛に分割して右報酬に上乗せして支払い、同年一月以降の支払いについては四〇〇円ないし八〇〇円の振込手数料を控除した)。

19  ところが、被控訴人会社としては、前記見本市の会場での展示に際し被控訴人会社の名前が掲示されず、控訴人において特許出願中ということで控訴人が独自で開発したことになっていたことに釈然としないものを覚えていたのに加え、昭和六三年一二月に、控訴人が前記京都大学の実験結果を使った論文を被控訴人会社の了解を得ないまま発表したことについて納得できないものを感じ、控訴人に対する前記協力依頼の関係を解消することを決意し、そのころ、控訴人にその旨の申入れをして、両者間の従前からの関係はすべて解消されるに至った。

二  しかるところ、被控訴人会社代表者は、昭和六二年四月末ころ、控訴人に対し、中井に本件発明の実施権を承継させたい旨申し入れたところ、控訴人はこれを承諾し、控訴人と被控訴人会社の本件契約はお互いの書類を廃棄して解除しようということになった旨供述する。

右供述中、被控訴人会社から控訴人に対し本件発明の実施権を中井に承継させたい旨の申入れをしたこと自体は、前示事実経過中、右申入れに至るまでの事情に照らすと、本件契約が締結されて間がないときのこととはいえ、格別、不自然なこととは考えられない。

そして、その際、右被控訴人会社代表者が供述するように、お互いの書類を廃棄して本件契約を解除しようということになったのであれば、もちろん被控訴人会社主張の合意解除が認められることになる。

また、そうではなく、右中井に対する承継承諾申入れの際、本件契約解除の点については、右被控訴人会社代表者のいうような明確な形で話はなかったとしても、被控訴人会社としては、本件発明の実施権を中井に承継させる反面、被控訴人会社との本件契約を終了させる趣旨で右申入れをしていることは、前示事実経過に照らし明らかである。そして、その後、前示のとおり昭和六二年八月に至り、被控訴人会社から控訴人に対し、改めて前示協力依頼がなされて、報酬の支払いが始められるとともに、控訴人においても右協力依頼に応じた行動をとってきたと認められることや、その反面、右中井に対する承継承諾申入れ後、前示昭和六三年一二月に最後の報酬が支払われるまでの間、控訴人の方で被控訴人に対し本件契約の存続を主張し、その履行を求めるか、これとの関係を明確にするよう求めたことを認めさせる資料もないことに照らすと、少なくとも、控訴人としても、右中井に対する承継承諾の申入れが、反面、本件契約を終了させることになることを承知して、これに応じてきたものとみる方が、前記事実経過全体の流れにも沿うものと考えられる。

控訴人本人は、原審において、被控訴人会社から本件契約を解約してくれといわれたことは一度もなく、昭和六三年一二月の支払いを最後に本件契約に基づく実施料の支払いがなくなったので、被控訴人会社の代表者加藤と話したところ、景気が悪いので一年位支払いを延ばしてほしいということであったので快く承諾した旨供述するが、前示事実経過や被控訴人会社代表者の供述に照らすと、すぐには採用し難い。

以上のことを綜合考慮すると、被控訴人会社のいう昭和六二年四月末ころの合意解除を認めることができるというのが相当である。

三  当審における補充主張1(被控訴人会社と近畿ホームビルダーとの関係についての認定の誤りと、それを前提とした判断の誤り)について

控訴人は、原判決が「被控訴人会社が本件発明を利用した工法で家屋の建築をする場合には、近畿ホームビルダーに下請けに出せば済むことであり、被控訴人会社が実施料を支払って本件発明の実施権を保有し続ける利益はないから、控訴人と近畿ホームビルダー名義の専用実施権設定契約が締結される見込みが判明した時点で本件契約を合意解除するに至ったことも不自然ではない。」(原判決四五頁)としたことを非難し、被控訴人会社は、中井及び齋藤が被控訴人会社から独立して近畿ホームビルダーを設立した後も本件発明を実施することを予定していたのであり、本件発明の実施権を保有し続ける利益を有していた、そうであったからこそ、被控訴人会社の代表者となった加藤は、昭和六二年四月までに、控訴人との間で、わざわざ文書を交わして第一契約を改め、実施料を定額とする本件契約を締結したのである、その本件契約を同月末に合意解除するなどあり得ない旨主張する。

しかし、前示事実経過に照らすと、近畿ホームビルダー独立後も被控訴人会社が自ら本件発明を実施することを予定していたとは認め難く(現に被控訴人会社が本件発明を実施して工事を行ったのは近畿ホームビルダーに下請けさせた柏本、田中両邸の工事だけであり、その後に受注された工事はすべて在来工法によったものと認められる)、右事実が認められることを前提とする補充主張1は、採用できない。

四  控訴人の当審における補充主張2(被控訴人の本件発明実施を推認させる事実の存在)について

この点の判断は、基本的には、原判決の「第四 争点に関する判断」の五項の6に判示されているとおりであって、補充主張2を斜酌しても右認定、判断を左右するものとは認められない。

すなわち、甲一三号証のパンフレットが、控訴人が主張するように平成二年九月にオープンした被控訴人の橿原展示場で配付されていたかどうか自体定かではないし、仮に、被控訴人会社代表者加藤の供述するところによって(平成六年三月一五日原審第一六回口頭弁論期日同代表者調書・原審記録二八七、二八八丁)、若干の配付があったと認められるとしても、被控訴人が本件発明を実施していたことを推認させるには不十分である。また、本件発明及びこれを利用したTM構法によって建築されたモデルハウス(学園前展示場)の建築途中の写真が、完成した右モデルハウス内に展示されていたこと(被控訴人会社代表者加藤平成六年三月二九日原審第一七回口頭弁論期日調書・原審記録二九四丁)も、先に認定した、同所における模型の展示と同程度の意味しかなく、先の認定を左右するものとは認められない。

五  控訴人の当審における補充主張3(本件給付の趣旨)について

これに関しても、前示事実経過に判示した控訴人の経歴や被控訴人会社との関わり及び被控訴人会社の技術スタッフの状況等に照らすと、本件給付に関する認定が社会常識に反するものとは考えられず、右主張も採用できない。

第五  結論

以上の次第で、控訴人の請求は、その余について判断するまでもなく理由がないから、これを棄却した原判決は相当である。

よって、本件控訴を棄却し、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 上野茂 裁判官 山﨑杲 裁判官 上田昭典)

原判決訂正等一覧表

箇所 訂正前 訂正後

(1) 5頁4~5行目 「特許権の製造及び販売実施権設定契約」 「特許権の製造及び販売実施権設定契約書」

(2) 29頁10行目 今までの建築では考えられなかった 今までの木造建築では考えられなかった

(3) 32頁2行目 乙一〇ないし一三、 乙一二、一三、

(4) 32頁3行目 二一ないし二四、 二二ないし二四、

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